慢性甲状腺炎(橋本病)とは

慢性甲状腺炎(橋本病)について

  • 甲状腺は食物から取り込んだヨードを主原料として甲状腺ホルモンを合成し血液中に分泌します。慢性甲状腺炎(橋本病)は、自分のリンパ球が自分自身の甲状腺を徐々に壊してしまう病気です。そのためにホルモンを十分に作れなくなることがあります。
  • この病気は女性に多く、日本人の30歳以上の女性10%位は慢性甲状腺炎があると言われています。
  • 甲状腺が腫れて喉仏の下が盛り上がったようになります。
  • 1912年に九州大学の橋本先生が発見したため「橋本病」と名がつけれました。

慢性甲状腺炎(橋本病)の原因

  • 慢性甲状腺炎は自己免疫疾患の1つです。甲状腺を異物とみなして甲状腺組織に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体)が陽性に出ます。
  • これらの抗体が甲状腺を壊していくと、徐々に甲状腺機能低下症になっていきます。

慢性甲状腺炎(橋本病)の症状

  • 甲状腺の腫れ(びまん性甲状腺腫)
    • 甲状腺が全体的に腫れることです。
  • 甲状腺機能が正常な場合
    • 橋本病の半数以上は甲状腺ホルモンは正常です。甲状腺ホルモンが正常値内にあるので身体に影響を与えることはありません。
  • 甲状腺機能低下になると
    • 甲状腺の働きが悪くなり血液中の甲状腺ホルモンが不足した状態をいいます。
    • 甲状腺ホルモンは身体にとって重要なホルモンなので、不足すると身体に様々な症状が現れます。
      • 寒がりになる
      • 疲れやすい
      • 動作が鈍い
      • 声がかれる
      • 気力が低下する
      • 食欲がないのに体重が増える
      • 皮膚がカサカサになる
      • 眠くなる
      • 脈が遅くなる
      • むくみ
      • 便秘
      • 月経過多
      • 貧血・高コレステロール血症・肝機能異常
      • 心不全  など

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慢性甲状腺炎(橋本病)の検査

  • 甲状腺組織に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体)があるか血液で調べます。
  • 甲状腺機能を調べるために血液中の甲状腺ホルモンを測定します。
  • また、甲状腺刺激ホルモンの測定もします。甲状腺ホルモンの不足があると下垂体が甲状腺刺激ホルモンの分泌を増やし血液中の濃度が上がります。甲状腺刺激ホルモンの濃度が少しでも高ければ甲状腺ホルモンの不足があることになり甲状腺機能低下が分かります。
  • 超音波検査で甲状腺の腫れ具合を調べます。

慢性甲状腺炎(橋本病)の治療

  • 慢性甲状腺炎(橋本病)で治療が必要な人は、甲状腺機能低下がある場合、甲状腺腫が大きい場合です。
  • 甲状腺機能が正常な場合
    • 治療の必要がありません。将来、甲状腺機能が低下する可能性があるので、1年ンに1~2回くらい経過をみる必要があります。
  • 甲状腺機能が低下している場合
    • 不足している甲状腺ホルモンを内服薬で補います。適量の甲状腺ホルモン剤を服用していれば、甲状腺機能低下による症状はなくなってくるはずです。
  • 甲状腺ホルモン剤
    • 甲状腺ホルモン剤にはチラージンSとチロナミンがあります。特別なとき以外はチラージンSを用います。個人差はありますが1日1~3錠位です。
      • 甲状腺ホルモン剤は1度にまとめて服用してもかまいません。忘れないように決まった時間に服用するようにしてください。忘れたらその日のうつであれば思い出したときに服用してください。
        • 心臓等に負担を避けるために少量からはじめることがありますが2~3ヶ月後には適切な量が決まりますので、その後は適量を飲み続けます。
        • 治療を続けるうちに血液中の甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの濃度が正常になり、甲状腺機能低下による症状がとれてきます。症状がとれたからと薬を中止してはいけません。身体に足りない分を薬で補充しているので服用を続けてください。服用を中止するといずれ元の状態にもどります。
        • 甲状腺ホルモン剤は、適量を服用している限り副作用は特にありません。妊娠中や授乳中でも安心して服用できます。
        • 甲状腺ホルモン剤と飲み合わせてはいけない薬はありません。他の病気で薬を飲むときでも甲状腺ホルモン剤は続ける必要があります。
  • 無痛性甲状腺炎
    • 甲状腺に蓄えられている甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出てくるために、一時的に甲状腺ホルモンが過剰になり、バセドウ病と紛らわしい症状が現れることがあります。甲状腺の痛みはなく「無痛性甲状腺炎」といいます。産後数ヶ月の間にはしばしば起こります。長くても数ヶ月のうちに自然に治ります。症状が強いときには症状を和らげる薬を使います。
  • 慢性甲状腺炎の急性憎悪
    • 甲状腺の炎症が急に強くなったために、甲状腺が大きくなり痛みや発熱をきたすことがまれにあります。ステロイド系の消炎鎮痛剤で治療します。薬の治療で症状が抑えきれない場合には手術を要することもあります。

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日常生活の注意点

  • 甲状腺機能低下症の症状がある場合には、症状がとれるまでは普段より生活を制限する必要があります。制限の程度は病状によってことなります。
  • 甲状腺機能が正常な人、甲状腺機能低下症があっても適切な量の薬を飲んで甲状腺ホルモンの濃度が正常になっている人は、健康な人と同じ生活をしてもかまいません。
  • 食べ物では、昆布・根昆布はヨード分が多いのであまり食べないほうがいいですが、他の海藻類は普通に食べる分には問題ありません。
  • うがいに使うイソジンガーグルはヨード分を多量に含みますので使いすぎに注意する必要があります。
  • 定期的な通院に心掛けてください。

妊娠・出産

  • 甲状腺機能が正常であれば、健康な人と同じように妊娠・出産ができます。甲状腺機能低下症の人でも、甲状腺ホルモン剤で血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になっていれば問題ありません。甲状腺ホルモンは健康な赤ちゃんを産むためには必要なホルモンです。妊娠中も服用を中止しないでください。授乳中も全くさしつかえありません。妊娠がわかったら必ず定期的に通院してください。
  • 産後に病状が変化することが少なくありません。無痛性甲状腺炎が起こることがあります。産後もきちんと通院してください。